「一応中確認した方がいいよね。」

そっと部屋に近づき、顔を中に覗かせる。

「!!」

その部屋は・・・見覚えがあった。
部屋中にぶら下がっている紐と・・・封印の札らしきもの?
そして、壁面にはまるで石像のように埋め込まれている、一人の女性。

「・・・羅刹女?」

思わず口からその名前が出て慌てて自分の口をふさぐ。
危ない危ない、李厘ちゃんならともかく他の人がいたら怒られちゃう。
そう思って外から羅刹女を見ていたけど、もう少し近くで見たくて一歩、また一歩と足を進め部屋の中に入って行った。
そして羅刹女の真下まで来るとその耳元についているイヤリングの形がしっかり見えた。

「やっぱりそうだ、あのピアス・・・紅孩児がつけてるのと一緒だ。」



本の中で見た三角形のピアス。
紅孩児がとても大切にしている物・・・。

(って事はやっぱりここは桃源郷の吠登城で、しかも羅刹女がこの状態って事は・・・玉面公主が君臨してるって事か・・・って事は?既に紅孩児は三蔵達に会ってるの!?)

その辺の細かい事は分からない。
分かる事は紅孩児は羅刹女を・・・お母さんを助ける為に玉面公主の命に従って何かを始めているって事だけ。

「・・・紅孩児は貴女を助ける為に頑張ってますよ。だから、貴女も頑張って下さいね・・・羅刹女。」

何でそんな事言ってしまったのか・・・。
自分でもへんだなぁと首をかしげながら石像状態の羅刹女に手を振って、出口に向かって歩き出した。
その時、人の気配は全然無かったはずなのに部屋の隅で誰かがじっとこちらを見ているのにようやく気づいた。
この部屋で、ジッとたたずんでいるような人物はたった一人しか思い浮かばない。
やがてコツコツと言う靴が床に当たる音が、あたしの方へ近づいてきた。
足が床に張り付いてしまったかのように動かない。



その人物が目の前に立ち塞がった時・・・ようやく足が動くようになったが、代わりにその人物に腕をつかまれ再び体が動かなくなった。

「お前は誰だ。」

「こ、紅孩児・・・!?」

「どうして母上の部屋に入った。ここはお前のような者が簡単に入っていい場所じゃないぞ!」

悟浄と同じ紅い髪、頬にある妖怪の印であるアザ・・・そして、耳元で揺れている羅刹女とお揃いのピアス。

「おい、聞いているのか!」

その姿に見とれてしまったあたしは紅孩児の声でようやく我に返り、無断でこの部屋に入ってしまった事を詫びるべく頭を下げた。

「すみませんっ!ご、ごめんなさい!」

何度も頭を下げ続けるあたしを見て、紅孩児は小さなため息をついた。

「・・・まぁいい。これからはここには入るなよ。」

「はい!本当にすみません・・・」

「もういい・・・行け。」

そう言うと紅孩児は今まであたしが立っていた場所に立つと、その視線を柱に刻まれてしまった羅刹女へと向けた。
何とも言えない悲しげな空気が部屋中に満ちていく。



悟浄達の敵・・・になってしまうけど、両方にとって良い方向へ進むことは出来ないのかぁ・・・。
そんな事を考えてよそ見をしていたら、おっちょこちょいなあたしは扉がない出入り口のすぐ脇の壁に思い切りぶつかってしまった。



何とも言えない鈍い音が部屋中に響いた。

「いっ・・・イタッッ」

「おい、大丈夫か?」

紅孩児が心配して駆けつけてくれた。
王子様・・・大切な場所に無断で入った見ず知らずの人間が倒れただけなのにこうして心配してくれるなんて・・・やっぱり貴方は人が良すぎるよ・・・。
紅孩児が心配そうな顔であたしの頭にそっと手を置く。

「大丈夫か・・・その・・・お前の名は?」

・・・です。」

か、意識はハッキリしているな?少しそこにいろ。今薬師を呼んでくる。」

それだけ言うと紅孩児はバタバタと部屋を出て廊下を走って行った。
廊下に紅孩児の声が響く・・・八百鼡ちゃんを呼びに行ってるのかな?





しかしあたしの意識は八百鼡ちゃんが来る前にだんだん痛みを増してきた頭痛と共に遠くなっていった。





END